雲仙での種市大学 ~岩崎さんの畑にて

1月30日 31日と2日間にわたって雲仙で開講された「種市大学」に行ってまいりました。

若手農家による公開トーク「男たちの種会議」にお呼びいただいての参加となったのですが、

種取り農家、岩崎さんの圃場を見学できる機会があるということで、それはそれは楽しみにしておりました。

長崎、雲仙に到着して一番びっくりしたのは、畑の土の赤さ。レンガを砕いたような真っ赤な土です。

立派な石垣とのコントラストも鮮やかに海までつづく雄大な景観です。ちょうどジャガイモの種まきの真っ最中でした。

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1日目の濃密な講演。雲仙観光ホテル、山本晋平シェフの素材一つ一つに寄り添う気持ちあふれる、それはそれは素晴らしいお野菜のコースなど。

本当に凄い2日間の企画で、お伝えしたいことはたくさんあるのですが、それは種市FB公式ページでご覧いただきまして

農業者である私は、岩崎さんの畑を拝見させていただいてのお話に絞りたいと思います。

岩崎さんのお名前は、種取りのマニュアル本などで拝見していて、以前から知っていたのですが、種市と関わるようになって、種取りをしている野菜の品種数を聞いて、その膨大さに唖然とした記憶があります。

 

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私も、十数種類の野菜の種をなんとか採っているのですが、その経験からいっても、とても一個人ができる数ではありません。

 

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もちろん作業量の問題もそうなのですが、それ以上に、一つ一つの品種の特徴や時期、ばらつき具合など、いろいろ気を配るポイントがあります。

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それを大根だったら10種類以上、カブはもっとたくさんありました。葉野菜なんて数え切れません。しかもそれは今の冬の時期の話で、夏は夏野菜がたくさんあるのです。

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私は、一つの野菜で、1品種か、やっても2品種しかやりません。というかできません。それでも、毎年、いろいろ間違って何かしら失敗しています。

種を採るだけだったら収穫しないで放っておいて、種がついたら鞘から採ればいいのですが、野菜の種は、そうはいかないのです。放任してしまうと、他の植物の花粉が混ざってしまったりして、もとの野菜の形を保てないのです。

そもそも野菜は野生のものではありません。野原の野生の植物の種を人間が拾ってきて、何千年かけて利用しやすい形に徐々に変化させてつくりあげたものです。なので、人間が関わらないと消えて無くなってしまう種族です。

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種を採るためには、いろいろ野菜をお世話してあげなければならないのです。もともとの形や味を引き継いだものを選んであげて、他の植物と混ざらないように、隔離された場所に移し替えてあげたり、花粉が濡れないように屋根をかけてあげたり、実ってきた種を鳥に食べられないようにネットをかけたり。

それを岩崎さんは「種をあやす」と言います。

お母さんが赤ちゃんのお世話をするように、心を込めてお世話します。

私はそんな気持ちで種を採っていませんでした。必要なこと、大事なこと、とは思っていましたが、そんな気持ちではやっていませんでした。だから、毎年、何か失敗して「あちゃー」ってなってしまうんですね。緊張感が足りないんですよね。

何か別のこと、野菜を収穫する作業とか、発送だとか、そういう人間都合の、わかりやすい作業をつい優先させてしまう、そんなダメ親だったのです。

自分の子供だと思っていたらそんないい加減なことしませんよね。

それにしても、本来であれば、1軒の農家が自家採種で野菜をつくるにしても、カブや大根、菜っ葉など、用途や採れる時期などに合わせてそれぞれ数種類づつあれば、足りるはずなのです。

昔のように世の中の野菜が全て在来種であったらならば、そして、農家が自分で自分の種を採っていれば、岩崎さんのように一人の人間が、そんなにたくさんの種類のいろんな地方の在来野菜を作る必要はないはずなのです。

岩崎さんは先人の思いの詰まった種を、たくさんの方から託されて、消えてしまうには忍びないとの一心で種を引き継いでいらっしゃったのだと思います。

もちろん、野菜たちの美しく可憐な花や、懸命に生きた証である枯れた姿に、心からの愛情と喜びを感じての毎日だったと思いますが、普通の個人では到底背負いきれないものを、そしてそれを誰にも評価されないなか、一身で、身を削って、自らの命を削って、野菜の命を引き継いでいらっしゃった過酷で厳しい年月であったとも言えると思います。その両方を岩崎さんの柔和なまなざしの奥から感じることができました。

ある意味、みんなでやるべきことを、岩崎さんに押し付けてしまったともいえると思います。

 

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東京での種市で野菜の販売が不振だったこと「台所に立つ余裕がなくなってきているんじゃないか?」などの主催の髙橋さんや奥津さんの言葉。

奥津さんが雲仙で、岩崎さんの畑で種市大学をやりたかった気持ちが分かる気がしました。

数十年前から言いつくされた言葉「経済、効率、利便性、が最優先、それが現代社会の病の原因」なんて、みんな知ってる。でも、知ってるだけじゃダメなんだ。在来種ってすごいね。って言ってるだけじゃ、なにも変わらない。それを岩崎さんの畑で、みんなに感じて欲しかったんだと思います。

美味しい!感動した!とか、すごい!とか、そういうことじゃなくて、みんな、全員が当事者なんだよ。と。

私自身としても、これからも種取りをしていきたいと思いますが、それ以上に、もっと大きな意味で、暮らし方、家族とのかかわり方など見つめなおす必要があると感じています。

 

桑原広樹

 

 

 

 




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