ナスの剪定
朝晩はまだまだ冷え込む蒜山ですが、昼間の暖かさに野菜たちも次第に活気づいています。
就農当初から私たちは様々な野菜を試験的に取り組んできました。たくさん取れて作りやすく、そして、なにより美味しいもの。ここの土地と私たちに合った野菜は何なのか?
夏野菜に関しては、やっと昨年から絞り込むことができるようになってきました。
そんな私たちの夏野菜の主力品目の一つが「ナス」です。昼夜の寒暖差が大きく、朝露が、毎日のように葉を濡らす私たちの農園では、水分を多く必要とする「ナス」がとても美味しくできます。
夏野菜のなかでも、ありふれていて、流通量も多く、産地間で競合することも多い野菜で、私たちのような新規参入者にとって、販売するのが難しい野菜です。
それでも、蒜山耕藝は「ナス」でいこう!と思わずにいられないほど美味しいナスができるのです。
そんなナスですが、今年から普通の栽培の仕方ではない整枝剪定の方法を試そうと思っています。
それがこの支柱の立て方です。
ナスを栽培したことのある方は知っていると思いますが、普通のナスの支柱はX型に斜めに支柱を立てて、斜めに枝を伸ばしていくのですが、私たちは、斜めに枝を伸ばしません。あくまで、垂直方向に枝を伸ばしていきます。
左のナスは定植した姿そのままですが、右のナスは枝を麻ひもで結束しています。垂直方向に枝を伸ばした方が植物ホルモンが活性化して生長が早くなることは、植物学的にも確認されています。ちょっと窮屈で不自然な感じがしますが、初期の生長を促すには有効な手段ではないかと私たちは考えています。
ナスの普通栽培では、これ以外にも、実の収穫後の剪定や、バッサリ枝を落としてしまう更新剪定など、さまざまな技術があるのですが、私たちは、ことごとく、そのようなやり方はやらない予定です。切り上げ剪定というあまり一般的でない剪定のやり方をしようと思っています。切り上げ剪定については、また次の機会で詳しくお話できたらと思います。
これらの方法は私たちが独自に考えたわけではなく、ミカンの無肥料栽培で成果をあげていらっしゃる道法正徳氏の考えを元に、ナスに応用しようと考えたのです。
私たちは自然栽培と呼んでいる方法で野菜をつくっているのですが、それは決して、放任栽培ではありません。
人間と野菜はお互いが生きるのに必要な存在。人間は食料をいただく、野菜は命をつなげていく。どちらが欠けても生存することができない間柄です。
私は千葉で農業をやっていた時は、大根やニンジン、イモ類をつくっていました。これらの根菜は、種まきをしてから収穫まで、草取りと間引き、土寄せくらいしかできることがありませんでした。(その草取りが大変なのですが。。。)
種を播くまでの土づくりや、発芽してからの周りの環境を整えてあげることはできても、生長自体は野菜自身の力に任せるしかなかったのです。
蒜山に移住して、お米作りを始めたり、道法氏を始め、果樹農家さんと意見交換をしていくなかで、米や果樹は、根菜と比べて人間がかかわる部分がとても多いことを知りました。そして、なにより、取り組む人間の意識や姿勢の違いで、成果が桁違いに違うということも感じました。
人が積極的にかかわっていくことで、肥料も農薬も全く使わずに、とても健康的で美味しい農作物が、一般栽培にも負けないくらいたくさん収穫できている状況を目の当たりにして、とても感動したのです。その農作物にとってその人は必要な存在なのです。人間も地球に存在していいのだと。
あの震災とあの事故、そしてその後の対応。人類は、日本人は、なんてことをしているのだろう。そして、なんでまた、忘れたかのように元の状況に戻そうとするのか?
いろいろなニュースに接するたびに打ちひしがれていた私ですが、生きる希望をもらったのは、自然栽培の農産物たちと、それらに真摯に向き合う諸先輩方の姿でした。
人間がもっと野菜に寄り添うことで、つまり、自然と調和することで、野菜たちと積極的に協力し合える関係ができるのではないか?そういう関係ができたとき、はじめて、自然栽培の農産物がつくれるようになれるんじゃないかと思うのです。
桑原広樹