堀仁憲さん、坂野友紀さんを訪ねて <2>

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今度は母屋を抜けて、坂野友紀さんの工房へ。

 

足を踏み入れると「ああ、友紀ちゃんの部屋だ。」と感じます。
きれいに整理整頓され、清められ、愛おしいものたちに囲まれた、坂野さんだけの空間。

 

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アンビルという素材を叩くための台を前にして座る坂野さん。坂野さんのいつもの定位置です。

 

 

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なんだかアンビルに人格を感じてしまうほど、ふたりは仲良しなんだとひしひし伝わってきます。
果てしない時間と、色んな思いの時間をふたりは一緒に過ごしてきたんだ、それが伝わってくるのです。
長年連れ添った犬や猫のよう、アンビルさん。

 

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お話を伺っていると、坂野さんと金属との出会いは必然だったんだと感じさせられます。

 

「大学生のとき、ものづくりをしたい気持ちを思いっきりぶつける素材になかなか出会えないまま、3年が過ぎ。
必修で課題はこなしていたものの、まったく興味のなかった金工だったのですが、デザインの授業の課題で考えたペーパーウェイトを、金属で作ってみよう!と思ったんです。」

 

金工の先生に相談しに行くと、「1から自分で考えるなら、やっていいよ」と。
与えられた課題ではなく、一から向き合っていく中で、そのおもしろさに魅せられていったそう。

 

「今まで冷たく硬いイメージで敬遠していた金属だったけれど、真剣に向き合うことで素材にもしっくりと馴染み、すうっと周りの世界と繋がる感覚があって、呼吸が楽になるのを感じたんです。金属が、自分の言葉になるような。」

 

それからは文字通り朝から晩まで金工室に入り浸って金槌で金属を叩く日々。
まるで金工病のようだった!と坂野さんは言う。
話を聞いていて学生の頃のフレッシュな感動が伝わってくるようでした。きっとまさしく水を得た魚だったんだろうなぁ。
卒業後もどうしてもやり続けたい一心で、まずは場所を確保して(倉庫の一角を間借り)あとさき考えずにはじめてしまった。

 

「もちろんすぐに結果は出なかったけれど、信じられないくらいつながってつながって、今があります。」と。

 

なんて自然な生き方なんだろう。

感覚がまずはじめにあって、そのために現実的にどうするか構築していく。
田畑の作業に通じるものを感じました。
まずは自然の流れや条件があって、そこで人が「栽培」するためにどう関わっていくのかを考える。

 

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カン!カン!カン!カン!
坂野さんが一枚の金属の板を叩きます。
思うままに金槌が金属を打ち、みるみる形を変えていくように見えます。
金槌もアンビルも坂野さんの身体とつながっている。

 

 

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坂野さんのつくるもの。
私が思っていたよりもずっとたくさんの工程がありました。
金属を切り出し、叩いて伸ばし、形を整え、最後にやすりで仕上げていきます。
これを全て坂野さんひとり、手作業でされています。
フォークなんて先の一本一本すべての面をけずっていくんです。

「どこを触っても痛くないように。」

それはどんなものをつくっていても常に意識していると話してくれました。
金属は冷たくて硬いというイメージを持ってほしくないから、と。
かつての自分がそうだったように、金属の新しいイメージを。
坂野さんのカトラリーや器を使っているときに感じる優しさ、温かみ、柔らかさ。
それはこんなにも大変な作業があって、そして金属への愛があってこそなんだと実感しました。

 

<3>へ続く。

 

 

高谷絵里香

 

 

 

 




立夏も過ぎて
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