空気の脈と水の脈 その5

先月、矢野智徳さんによる空気と水の脈から見た田んぼの見方と環境改善作業に参加してきたのでそのご報告を。

 

会場となった秀明自然農法しがらきの里さんの田んぼは、山と川の間にある山間部によくありそうな場所でした。

山から川に向けて下りてくる水が田んぼに影響し、いかにも乾きにくそうな圃場に見えました。

 

この田んぼを前にして矢野さんの指摘は次のようなものでした。

 

この田んぼは畦も昔と同じなのに決定的な違いがあります。

田んぼの山側にはコンクリート舗装された道路とU字溝があり、川側もコンクリートによる護岸工事がされています。

山から川に向けて通っていた空気と水の脈はこれにより阻害され、田んぼの中の空気と水の動きも悪くなっています。

それは田んぼのみならず山の斜面から山頂にかけて生えている植物にもその影響は及んでいくでしょう。

そういった状況でも人間ができるだけのことすることで空気と水の脈が改善し、プラスの影響を広げていくことができます。

 

そういった見立ての中、田んぼに手を入れていきました。

 

田んぼに水が溜まらないように切った溝。

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ふつうはこれだけですが、その溝の中にも自然の落差をつけるために点穴をところどころに掘ります。

こうすることで溝の深さでしか動かなかった空気や水が落差をつけてあげることで動きを増し、さらに深い部分にまで影響していくことになります。

溝に溜まった泥のアクのようなものが空気に触れることで消えて無くなり、地表にヒビが入り、それが空気と水の道になります。

 

点穴の底が細かい泥で詰まらないように草や藁で詰めることもあります。

 

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ただ、早く水を流せばいいのではなくて等速で安全な排水ができるように。

流れる水が泥水ではなく澄んだ水になること。それが空気が通った目安となります。

 

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田んぼの外側は人力では大変なので重機での作業です。

バケットで斜面側を掘っていくと灰色の土が出てきます。

空気と水の動きが悪くなると腐り水やグライ土壌といわれる灰色の土となります。

多くの場合、斜面と平らな面の転換線となるような場所にこのような現象が起こるようです。

 

ここに溝を掘り、浸透管というパイプを入れて目詰まりを起こさないように竹や木の枝を入れて空気と水が動きやすい道をつくってあげます。

冷たい雨の中、足元もぬかるんでしんどい作業でしたが黙々と作業を続けます。

 

 

 

その作業から2週間後の田んぼです。

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土が凍ってわかりにくいですが、前日の夜に雨が降ったにも関わらず溝の水は前回よりも少なく、掘り上げた土も灰色がだいぶ薄くなりました。

雨が降ってもスポンジのように吸い込めるようになると表面にある石も洗われて綺麗になります。

空気が通ると種も発芽しやすくなり、暖かくなると一斉に草の種も芽吹き、地形を安定させてくれます。

 

 

たとえコンクリートなどで大地の呼吸が滞ってしまっても諦めることなく、できるかぎりのことをしていくことが大切だと矢野さんは言います。

自然は一時も休むことなく働きかけている。

何百年、何千年とかかっても自然にとっては大した時間ではないけれど、私たち人間にとっては長すぎます。

人間は大きな力を持ってバランスを崩してしまったかもしれないけれど、それを戻すだけの力も持っている。

 

決して諦めずにできるだけのことをする。

 

たとえ重機がなくても、移植ゴテやスコップだけでもできることはあります。

丁寧にやり続けること。

 

 

矢野さんの作業を5日間一緒にさせてもらいましたが、森も畑も田んぼも、河原や石垣、家の庭も同じ考えのもと作業をしていました。

自然は本当にシンプルで、力強くて、とても大きい。

そう感じずにはいられません。

 

 

ここ蒜山もほとんど雪も無くなって後は土が乾くのを待つばかりです。

来週には田んぼに出られるかもしれません。

春の呼吸が活発な時期に少しでも田んぼに息をさせてあげたい。

 

焦る気持ちはありますが、自然と同じようにゆっくり急ぐことが大切です。

 

移植ゴテとスコップを持って今年の農作業がそろそろ始まります。

 

高谷裕治

 

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